AI活用の実例約7分で読めます

AIで本を1冊書いて出した記録時間の8割は「書く」以外に使った

企画から入稿まで約6時間。うち本文9章・約19,300字を書いたのは19分でした。残りはどこに消えたのか。実際の作業ログから、AIに任せられたことと人が引き受けたことを振り返ります。

公開日
更新日
著者
シュン博士
本を1冊作ったときの作業時間の内訳。本文を書く時間はごく一部で、大半は読み返しと表紙に使われた

AIが速かったのは、「書く」ところだけでした。

先日、中小企業の経営者向けの本を1冊書いてKindleで公開しました。企画から入稿まで、実作業で約6時間。うち本文を書くのにかかったのは19分です。

ただし19分で出てきたのは叩き台で、そのまま出せる原稿ではありませんでした。残りの時間が何に消えたのか、作業記録をそのまま出します。

What I Made

作ったもの:『AIエージェント導入、最初の一歩』

中小企業の経営者・事業責任者に向けて、AIを「便利な道具」から「働く仕組み」に変えるまでを書いた本です。本編は30分で読み切れる分量。全76ページ、約26,300字。2026年7月25日にKindleで公開しました。

実物はこちら → AIエージェント導入、最初の一歩(Amazon Kindle)

以下の時間は、作業履歴に残った記録から拾った実測値です。

Time Log

6時間の内訳 — 本文を書いたのは19分

企画を始めたのが7月23日の13時10分、表紙まで含めて入稿できる状態になったのが同じ日の19時18分です。

工程かかった時間中身
目次と設計を決める34分章立て、各章で言い切ること、章ごとの決め台詞
本文を書く19分序章〜終章+コラム4本。実測19,309字
図を9点つくる28分HTMLで作って画面を撮る方式
電子書籍の形式に変換2分原稿ファイルからKindle用のファイルへ
読み返して直す約3時間実機で読む → 見せ方を作り直す → 2章分を書き足す → 推敲
表紙をつくる約1時間40分10回作り直した
本1冊の作業時間の内訳。設計・執筆・図・変換で約1時間半、読み返しと表紙で約4時間40分

設計・執筆・図・変換の4つを足しても、1時間半に届きません。残りはすべて原稿ができたあとの作業です。

19分

本文(約19,300字)が出てくるまで

約4時間40分

そのあと人が手を入れた時間

全体の約8割が「書いたあと」で、この8割はAIに頼んでも肩代わりしてもらえませんでした。どれも「決める」作業だったからです。

Fast

AIが速かった3つ

この3つは、一人でやっていたら数日かかっていた作業です。

1

骨組みを一緒に決める(34分)

章立て、各章で言い切ること、章ごとの決め台詞。AIに考えさせたというより、壁打ち相手にして決めた34分です。案を出してもらい、違うと思ったら理由を言って引き直してもらう、の繰り返しでした。

一人だと、この段階でいちばん迷います。「この章は要るのか」「順番はこれでいいのか」を何日も持ち越す。相手がいると数十分で片づきました。

2

本文を書き出す(19分)

骨組みが決まっていたので、書き出しはあっという間でした。約19,300字が19分。ただしできたのは原稿ではなく叩き台です。間違いこそ少ないものの、読み物としてはかなり平坦でした。

速いのは骨組みが先にあるからです。骨組みなしで「本を書いて」と頼むと、それらしいだけで誰にも刺さらない文章が出てきます。
3

電子書籍の形式に変換する(2分)

原稿ファイルをKindleで読める形式に変える作業です。手順を一度作れば、以降は毎回2分。直しては読み、直しては読みを繰り返せたのは、この2分のおかげです。

Human

人が引き受けた4つ

時間の8割を占めた作業を、性質ごとに4つに分けます。

1

事実が本当かを確かめる

第1章の「AIの実力はここまで来ている」を書くために、AIに事例を挙げてもらいました。もっともらしい事例がいくつも出てきましたが、出典まで当たって本に残したのは2件だけです。残りは出典が見つからないか、内容が言われているほどではないかで、全部落としました。

AIは、事実と「事実っぽい文」を同じ調子で書きます。外に出す文章では、この裏取りを省略できません。

2

「読んだ感じ」を判断する

いちばん時間を食いました。一度Kindleの形式に変換して端末で読んだところ、文章は正しいのにまったく頭に入ってこなかったのです。全部が同じ強さで書かれていて、どこが大事なのか分からない。いわゆる「平坦」な状態でした。

そこで強調の付け方を設計し直しました。章に1つだけ決め台詞を大きく見せる、章末に要点を囲みで置く、太字は1章に数箇所まで。使う場所と回数を決めてから全章に入れ直しています。読み返す中で「この2つの疑問は本文に入りきらない」と分かり、章を2つ書き足したのもこの時間帯です。

ここはAIに判断させられない

「この原稿は読みやすいですか」と聞けば、それらしい答えは返ってきます。でも端末で読んだときの「入ってこない感じ」は、読者として自分で読まないと分かりません。AIに任せられるのは直す作業で、直す必要に気づくことではありませんでした。

3

文字が入る画像をつくる

本には図を9点入れていますが、1点もAIの画像生成を使っていません。画像生成に日本語を入れさせると崩れるからです。代わりに、ホームページを作るのと同じ要領で図をHTMLで組み、画面を撮ってPNGにしました。文字が崩れず、直したいときは1行変えるだけで済みます。

表紙も同じで、イラストはAIに描かせ、タイトルの文字は別に組んで上に重ねています。絵はAI、文字は自分、の分業です。

4

出す先のルールに合わせる

電子書籍には、紙の本にはない制約があります。作ってみて初めて分かったのは次の3つでした。

  • 白黒の端末で読まれる(色の違いだけで意味を伝える図は、そこで読めなくなる)
  • ファイルの大きさが配信の費用に響く(画像はできるだけ軽くしておく)
  • 文字の大きさは読者側で変えられる(レイアウトを固定した作り方ができない)

この手の事情は、こちらが知らないままだとAIも教えてくれません。図をモノクロでも読めるように作り直したのも、画像を圧縮したのも、ルールを調べてから自分で決めたことです。

表紙だけで1時間40分・10回作り直した

いちばん意外だったのはここです。本文より表紙のほうが時間がかかりました。タイトルの文字の大きさ、キャラクターの位置、帯の高さ。一発で良いものは出てきません。

ただ1回あたりは数分なので、10回試せました。外に頼んでいたら、10回直す選択肢は取らなかったはずです。AIで変わったのは速さより「気軽に作り直せること」でした。

Order

やるなら、この順番

もう一度やるなら、順番を変えます。今回いちばん無駄だったのは、後から分かったルールに合わせて作り直した時間でした。

  1. PHASE 1

    先に「出す先」のルールを調べる

  2. PHASE 2

    骨組みだけは自分で決める

  3. PHASE 3

    早い段階で一度、完成形で読む

1つ目。 どこに出すのか、そこにどんな制約があるのかを、書き始める前に調べます。「白黒で読まれる」を先に知っていれば、図を作り直さずに済みました。ホームページでも同じで、スマホで見られるのか印刷されるのかを先に決めておくと後戻りが減ります。

2つ目。 何を、誰に、どの順番で伝えるか。ここだけは自分で決めます。丸投げすると、それらしいだけで中身のないものが出てきますし、あとから直すのがいちばん高くつきます。骨組みさえ決まっていれば、書く作業は本当に速いです。

3つ目。 途中で一度、完成した形で読みます。原稿のまま画面で読んでいたときは平坦さに気づけませんでした。読者が実際に見る形——本なら端末、ホームページならスマホ——に落とすと、直すべき所が一気に見えます。早いほど得です。

AIへの頼み方そのものに自信がない場合は、伝わる指示5つの型にまとめています。今回の本も、使った型はこの5つでした。

まとめ:書く時間は消えたが、決める時間は残った

6時間のうち、AIが肩代わりしたのは1時間半ほど。残りの4時間半は、事実を確かめ、読んだ感じを判断し、崩れる所を人の手で作り、出す先のルールに合わせる作業でした。共通しているのは、どれも「決める」作業だったことです。

AIを入れると仕事がなくなる、という話をよく聞きます。今回の実感は違いました。手を動かす時間は消えましたが、決める時間はそのまま残ります。残ったほうが、本来やるべき仕事だったのだと思います。

もう一つ大きかったのは、10回作り直せたことです。1回が数分なので、気に入らなければ捨てられる。この感覚は一度自分で作ってみないと掴めません。作るものは本でなくて構いません。自分のホームページ1枚でも同じことが起こります。

進め方の全体像は 「作りながら学ぶ」進め方 にまとめています。今回の6時間も、この順番でした。

Author

シュン博士

理学博士・AIエンジニア

実名・経歴は詳しいプロフィールでご覧いただけます。

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